Up here, a stillness――
The sound of cicadas
Seeps into the crags
こちらは、ミシガン州生まれの詩人・随筆家Arthur Binard氏が、松尾芭蕉の
「閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声」を英文に訳したもの。
先日、この俳句で良く知られる立石寺へ行ってきました。
山頂にある奥の院までは約1000段の石段を登ります。一段上るごとに煩悩が一つ消滅するという修業の道だそう。1000段と聞くと尻込みしてしまいそうですが、手すりもあり、登りやすく整備された石段だったので、それほどきついとは感じませんでした!
紅葉を楽しみながらゆっくりと登ること1時間半、奥の院まで到達🍁
せみ塚では、蝉の声が聞こえる季節ではありませんでしたが、悠久の時を思わせるような閑けさがありました。
ところで、「閑かさ」というのは、音が一切ない状態ではなく、人間の喧噪から離れた閑静さだ、とBinard氏は指摘しています。蝉がたくさん鳴いていても、それを包み込み「閑か」であり続ける状態。
「静か」といえばquietやsilentとなりそうなところですが、この場合はstillの方が適しているそうです。
ではquiet、silentとstillの違いとはなんでしょうか。
それぞれ辞書で調べてみると、
quiet:静かな、穏やかな、音を立てない、静粛な、沈黙した、閑静な、静寂な
silent:黙っている、声を出さない、無言の、無声の、静かな、静寂な、音のしない
still:静かな、しんとした、音のしない、黙った、静止した、じっとした、流れのない
うーん。いまひとつ違いが分からない・・・。
ということで、おなじみのT先生に聞いてみました!
quiet:音が少なく静かな状態 e.g. She is quiet.
silent:無音の状態 e.g. This room is silent.
still:動きがなく静かな状態 e.g. The city was still.
音量レベルで比べると、silentがquietを上回る「静けさ」を表すそう。Silent filmというくらいで、全くの無声無音な状態。
そしてstillは、音も動きもない雰囲気や状態を意味するとのこと。quiet に比べると、「動きがないこと」の方に焦点が置かれているようです。
ここでもう一度Binard氏の言葉を振り返ってみましょう。
“「閑かさ」というのは、音が一切ない状態ではなく、人間の喧噪から離れた閑静さ”
なるほど、これでsilentの選択肢は消えましたね。
でも蝉の音が聞こえるわけだから、静かで穏やかという意味もあるquietでもいいのでは?
Binard氏によれば、声に出したときの響きも重要なのだそう。
静かにしてほしい時に「しー!」と言ったり、無音の状態を「シーン」と表現したりするように、「しずかさ」「しみいる」「せみ」とサ行の音が続くことで、静かさを感じられるそうです。
英語でもこれは一緒で、「stillness」「sound」「cicadas」「seeps」と「s」の音を重ねることで同様の効果を生むと言います。
これでようやくstillnessが適切な理由が分かりました。
日本語はあいまいな表現をする言語とよく言われますが、直接文字には表れない情景を上手く汲み取って、ストレートな英語の表現に置き換えることで、より一層原文を深く解釈できる気がします。また英語でも日本語でも共通して「s」音が静かさをもたらすというのも面白い指摘でした。
新潟エリア Y.T